第17回秋季展WEB2020

寺本 敏則

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思い出の景観

  

東京育ちの私が関西の地に移ってからもう60年も経ってしまったかと、あらためて思う。

あの頃は勤務先の大阪事務所が本社になっていて仕事はただ忙しく、建築だ、デザインだ、やれコンペだと夢中で過ごす勤めが始まったわけだが、一方その住まいたる“独身寮”が阪神間の西宮市(兵庫県)の山沿いにあって、東京にはない身近に自然を感じさせるロケーションが気に入り、特徴ある風光の中に次第に馴染んでいったことを懐かしく思い出す。

画面、椀を伏せた様な小高いのは甲山(カブトヤマ・309m)でこの地のシンボルとして知られ、その左手が六甲山の東端で神戸の方向へと連なる。画面下に阪急の路線が走る。独身寮というのは、その甲山の山麓、住宅地が次第にせり上がるところにあって、質素だが遠く大阪湾を見渡していた。

実は、ここに描いた風景は実際に現地でスケッチしたものではなく地勢的に一致するものでもない。

私の関西暮らしが始まった、記憶の中に潜んでいる、いわば心の景観を描いてみたわけである。